エディット・ピアフ

愛の讃歌(Hymne à l'amour)といえば、日本でも美輪明宏などの大物歌手がカバーしているため、メロディくらい聞き覚えがあるだろう。

私のエディット・ピアフとのファーストタッチは天才クリストファーノーラン監督の作品『インセプション』で劇中でキーとなる音楽として採用されたときからだった。Non, je ne regrette rien(水に流して)が節目節目で流れてくるのだが、勝手に心の中に入ってくる彼女の歌声に心を奪われて、それから一時期エディット・ピアフしか聞いていなかった時期がある。

 

 

youtu.be

 

 

先日アップしたジャニス・ジョプリンもそうだが、最近、いろいろなアーティストや芸術家のドキュメンタリーを見ることにハマっている。ワインそのものではなく、そのワインができるまでの背景を知りたいのと同様に、アーティストが生み出した作品ではなく、その人の生き方、考え方も含めて、トータルで理解したいから。

 

幼少時代は貧しい家庭で劣悪な環境で育てられ、成功してからも、恋人であったプロボクサーのマルセル・セルダンを飛行機事故で亡くすなど、その人生は彼女の代表曲『バラ色の人生(La Vie en Rose)』のようなものではなかった。凡人が彼女と同じ人生を生きてきたとしたら、それは灰色の人生となるであろう。

 

しかし、彼女の歌曲の特徴である哀愁漂いつつも壮大なメロディと、そこに紡がれる美しい詩、それに圧倒的な歌唱力からは、過去の辛い出来事など、一切合切の全てを包み込むが感じられる。

 

ドキュメンタリーの最後、エディット・ピアフが海岸で縫い物をしているとき、記者がやってきて、いくつか質問をし、それに答えるというシーンがある。記者のインタビューに対して穏やかに答えるピアフ。その中の最後の質問の答えがとても印象的だった。

 

記者「女性へのアドバイスをいただけますか?」

 ー ピアフ「愛しなさい」

記者「若い娘には?」

 ー ピアフ「愛しなさい」

記者「子供には?」

 ー ピアフ「愛しなさい」

 

この愛はどこから生まれてくるのだろうか。

初めてエディット・ピアフを聞いたとき感じた、震えるほどの豊かな表現は、こんな背景があったのかと、ただただ感激してしまった。